第365章

小林絵里は、いっそう激しく身をよじった。このままの体勢でいるのも、こんなふうに近くにいるのも、どうしても嫌だった。

――この人は、カズじゃない。

彼が記憶を取り戻したその瞬間、カズは死んだ。

小林絵里の目の奥が熱くなり、声まで震えを帯びる。

「坂田和也、起きて」

坂田和也は彼女の異変を聞き取ったのか、顔を上げてじっと見つめる。指先が彼女の目尻に触れ、そっとぬぐった。

「絵里、泣いてる」

低く、やわらかな声。その一言だけで、小林絵里は半年前に引き戻された気がした。

築き上げてきた硬い壁が、心臓の上で音もなく崩れる。押し殺していたものが決壊し、涙が勝手にこぼれ落ちた。

坂田和也...

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