第372章

小林絵里はまつげをぴくりと震わせた。

「……どういう意味?」

坂田和也は彼女の頬にそっと触れ、次の瞬間には背を向けて、そのまま出て行った。

絵里は反射的に立ち上がる。

「坂田和也、どういうつもりなの。ちゃんと説明して!」

けれど、和也はもう階段を上がってしまっていて、振り返りもしない。弁解ひとつ寄こさない。

意味がわからない。胸の底がじわりと沈んでいく。

――まだ、何をする気?

もう離婚の話だって持ち出してないのに。それでも、まだ足りないの?

絵里は箸を握りしめた。力が入りすぎて、指先がかすかに震える。

しばらくして……。

彼女は息を整え、席に戻って食事を再開した。

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