第385章

小林絵里の身体が、びくりと跳ねた。

瞳の奥には、苦いものばかりが滲んでいる。

――そうだ。

人質を握られている以上、満足するかどうかを決めるのは、彼のほうだ。

わざと意地悪をされれば、彼女に打つ手はない。

絵里は指先をぎゅっと丸めたかと思うと、ふいに立ち上がり、彼の前に膝をついた。そして手を伸ばし、彼のベルトに触れる。

坂田和也はその光景に、瞳孔をすっと細めた。彼女の動きに視線を固定し、みるみる血の気が引いていく顔を見つめる。

……急に、興が冷めた。

和也は彼女の腕を掴み、引き起こして隣へ座らせる。声は低く、冷たい。

「そんな嫌々な顔を見せられても、俺はその気にならない」

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