第390章

小林絵里ははっとして、反射的に彼を見た。

車内は薄暗く、彼の顔は闇に溶けていて表情が読み取れない。

口を開きかけたものの、ふいに――わからなくなった。

「わたしも、わからない」

彼女は孤児だ。両親がどう夫婦として向き合うのかを見たことがない。だから、立派な夫や父親がどんなものかなんて、知りようがなかった。

けれど、坂田和也の家庭は壊れていないはずだ。

なのに、彼もわからないの?

そう問い詰めたかった。だが、いまの関係でそこまで踏み込む必要があるのか、とも思う。

知ったところで、何が変わる?

坂田和也が低い声で言った。

「だったら、このままやっていけばいいだろ。そんなに求め...

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