第432章

何人かの頭に、思わずあの夜の光景がよぎった。小林絵里が初めて高川寒彦のいるバーへ行き、酔いつぶれたときの――あの有様。

人を捕まえて、離さないのだ。

それでも当の絵里はけろりとしていて、

「ビールでしょ。1本くらい平気」

それを聞いた松本桜が、乗った。

「絵里が1本平気って言ったんだから、1本!」

高川寒彦は唇の端に笑みを含ませ、差し出されたビールを受け取ると、そのままプルタブを引いた。

飲もうとした、その瞬間。

コンコン、とノックの音が響いた。

「この時間に誰?」と桜が訝しむ。

絵里も不思議そうに視線を向けた。

だが寒彦はビールを手にしたまま、何事もないように一口。来...

ログインして続きを読む