第437章

「そうなのか?」

 坂田和也は、白く透きとおった彼女の顔を見つめたまま、ふいに身をかがめる。後頭部を押さえつけるようにして、唇を塞いだ。

 慣れたキスだった。じわじわと誘い、彼女が堪えきれずに自分から絡みつく瞬間を、余裕で待っている。

「俺は信じない」

 重く沈んだ息が、唇の輪郭をなぞる。声にはわずかな掠れが混じった。

 外は夜の色が濃くなり、街灯の光は車内まで斜めに差し込んでこない。闇に包まれた狭い空間で、二人の呼吸だけが絡み合い、熱がじりじりと上がっていく。

 車は街路樹の下に停められていた。影が揺れて、二人の頬に淡いまだら模様の陰を落とす。

 小林絵里は拒む暇もなかった。...

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