第538章

海はもう、潮が満ち始めていた。

遠くに積まれたコンテナは、闇の中にそそり立つ怪物みたいで――その腹の中の人間を、じわじわと呑み込んでいく。

小林絵里は表情ひとつ変えず、ただその方角を見つめていた。けれど距離を隔てた闇が濃すぎて、潮が上がっていく様子までははっきり捉えられない。

脳裏に浮かぶのは、自分がコンテナに閉じ込められていたときの光景。手足を縛られ、どうにもならない絶望と無力感に塗りつぶされていく。

死が迫ってくるのを見ているだけで、何ひとつできない。

夏目夕子――いま、あなたも同じ気持ちなの?

小林絵里はそっと視線を落とし、それ以上は見なかった。

そのとき、目の前にスマホ...

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