第547章

エレベーターの中の空気が、どこか妙だった。

ひんやりとした緊張の奥に、ほんのわずかな緩みが混じっている。息苦しいほどの圧がじわじわ広がっていくのに、高川寒彦と小林絵里に触れた途端、それだけがすっと消える。

説明のつかない感覚が喉元に絡みつき、胸が詰まりそうになる。

エレベーターは揺れもなく上へ運ばれていった。間もなく扉が開き、坂田和也が大股で出ていく。横顔は異様なまでに冷え切っている。

高川寒彦はその背中を見送り、わずかに眉を上げた。

何もしない? あいつが?

らしくない。あまりにも。

……まさか、本当に小林絵里を諦めたのか。

扉が閉まり、寒彦の視線は絵里の顔へ落ちる。彼女は...

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