第554章

小林絵里は警戒心むき出しで男を見据えた。深く黒い瞳が、まっすぐ彼女を射抜く。まるで――もう獲物だと言わんばかりに。

胸の奥に沈めていた嫌な記憶が、ぶわっと浮かび上がる。小林絵りは奥歯を噛みしめ、すっと包丁を取り上げると、その刃を自分の喉元へ当てた。

「あなたの言う通り。わたし、あなたに手は出せない。でも、それは自分に手を出せないって意味じゃない。坂田和也……もう一歩でも近づいたら、切る。死体相手に、さっきみたいなこと言える?」

坂田和也の足が止まる。口元に浮かんでいた愉しげな気配が一瞬で消え、沈んだ目で彼女を睨みつけた。

「刃物を下ろせ」

小林絵りは下ろすどころか、さらに喉へ押し当...

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