第556章

  坂田和也の瞳が、刹那に冷たい陰をまとった。青ざめた顔で、ぼそぼそと何かを呟く彼女を見下ろし――鼻で笑う。

  愛してない?

  だから何だ。

  気にすると思ったか。

  傍にいさえすれば、愛だの何だの、どうでもいい。

  楓の苑。

  坂田和也は小林絵里を抱き上げたまま階段を上がり、彼女の指を取って指紋認証に当てる。解錠音も待たずに大股で入ると、浴室へ向かい、熱い湯を張りはじめた。

  準備が整うと、そっと湯船へ沈める。絵里のぎゅっと寄っていた眉間が、わずかにほどけた。

  ――もう熱が出ている。まずは身体を温めて、それから薬だ。

  坂田和也は辛抱強く彼女の身体を洗...

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