第558章

「……あんた、狂ってる!」

 小林絵里の瞳に、はっきりと恐怖が滲んだ。坂田和也が、ここまで歪んでいるなんて――想像すらしていなかったのだ。

 その揺れを見て取った坂田和也は、目の奥に淡い複雑さを滑らせる。さらに距離を詰め、彼女の唇へ口づけた。恋人同士のように、ひどく優しく、ねっとりと。

 けれど絵里の睫毛は小さく震えるばかりだ。優しくされればされるほど、恐怖は増していく。魂の芯から冷えるような、逃げ場のない恐怖。

 絵里は堪えきれず、彼を押しのけた。

 坂田和也は怒るどころか、名残惜しそうに彼女の唇を見つめる。

 絵里は乱れた呼吸を整え、問いかけた。

「どうして夏目夕子に肩入れ...

ログインして続きを読む