第584章

小林絵里は激しく身をよじった。けれど坂田和也の腕は鉄の万力みたいに彼女を締めつけ、指一本ぶんも逃がしてくれない。

「放して、坂田和也……放して!」

声はかすれ、目尻がじわりと赤くなる。坂田和也の胸の中で、絵里の身体は小刻みに震え続けた。

それなのに坂田和也はさらに力を込めて抱きしめる。

「無理だ、小林絵里。俺は一生、お前を放さない。お前がまた俺を受け入れるまで、ずっとこうして抱いてる」

熱い息が首筋にかかり、絵里の視界は涙で滲んだ。

彼の匂いは、知っている匂いだった。かつていちばん頼って、いちばん安心した匂い。それはもう、魂の奥に刻まれてしまっている。そんなもの、簡単に忘れられる...

ログインして続きを読む