第602章

小林絵里は、びくりと身体を強張らせた。逃れようとして――それでも、堪える。

結局、彼が欲しいのはそれだけ。これまでの出来事は、全部そのための前振りに過ぎない。そう思って、心の準備だってできていた。

なのに。

次の動きが来る、と身構えた瞬間、坂田和也はただ――抱きしめたまま、長い時間を過ごした。

小林絵りの身体は終始こわばったまま、唇はきゅっと一直線に結ばれている。

リビングは静かだった。静かすぎて、二人の呼吸が、触れ合いそうで触れ合わない距離のまま、やけに鮮明に耳へ届く。

不意に、坂田和也が腕をほどいた。低く艶のある声で、冷めた調子のまま言う。

「じゃあな」

小林絵里は一瞬、...

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