第608章

小林絵里は、坂田和也の好物ばかりを頼むと、すぐにメニューを店員へ返し、江口寧々に目を向けた。

「江口嬢、ちゃんと覚えました?」

「わ、わたし……」

江口寧々はぽかんとした。まさか小林絵里がわざわざ口にしたのは、自分に教えるためだったのか――そんなふうに見えたからだ。

小林絵りはいったい、何を考えているの?

小林絵里の言葉を聞いた瞬間、坂田和也の眼差しがすっと冷える。周囲の空気まで数度下がったようだった。

それでも小林絵里は気づかないふりで、淡々と言う。

「次にあなたがまた彼に聞かなくて済むように、よ。あなたも分かってるでしょ、彼、あまり喋る人じゃないって」

江口寧々は理由もな...

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