第609章

「パァンッ」

乾いた音が、やけに大きく廊下に響いた。

江口寧々は頬を押さえたまま、信じられないという目で小林絵里を見上げる。

「……あんた、わたしを叩いたの?」

小林絵里は氷みたいに冷たい瞳で言い放つ。

「江口さん、本当に恩知らずですね。善意で手を貸したのに、あなたは逆にわたしを罵った。……叩くべきでしょう?」

わざわざ顔まで寄せてきたのだ。ここで一発入れないほうが、よほど損をする。

江口寧々は憎悪を滲ませ、噛みつくように睨んだ。

「生まれてこの方、こんなふうに侮辱されたことなんてない! 小林絵里、覚悟しなさいよ!」

小林絵里は眉を上げる。

「へえ? どうするつもりです?...

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