第610章

辞表を出す。

会社を辞める。

誰にも気づかれないように、静かに姿を消す。

そうすれば――きっと、周りを巻き込まずに済む。

小林絵里は唇をきゅっと結び、その計画は現実的だと腹の中で頷いた。

親族はいない。友人と呼べるのも松本桜、須藤星皓、高川寒彦くらい。

坂田和也は高川寒彦には手が出せない。唯一、思い通りにできるとしたら松本桜だ。

だったら、桜と一緒に出ていけばいい。

須藤星皓は?

自分がいなくなれば、坂田和也が彼に難癖をつける理由もなくなるはずだ。

――それなら、悪くない。

小林絵里はスマホを取り出し、これを桜に話すべきか逡巡した。

まだ、急ぐ必要はない。もう少し待っ...

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