第615章

小林絵里の顔色が、みるみるうちに曇った。

「あなたたちの楽しさって、わたしの苦しみの上に成り立ってるの?」

坂田和也が言う。

「つらいなら、俺のところに来い。守ってやる」

「ふふ……」

小林絵里は嘲るように笑った。

「どうやって守るの? あなたの愛人にでもなれって?」

坂田和也は答えない。ただ、笑っているのかいないのか分からない目で、彼女を見返した。

——滑稽だ。

正妻の座を捨てて、愛人になれって?

小林絵りは踵を返し、扉を思いきり閉めた。

「バン!」

坂田和也は目を閉じた。あの薄い笑みは、顔からすっと消える。

酒棚からボトルを取り出し、グラスに注ぐ。ゆっくりと喉へ...

ログインして続きを読む