第621章

エレベーターの扉は、そのまま開きっぱなしだった。

小林絵里は入口に立ち尽くす。外へ出るのは怖い。けれど、かといって中に留まるのも怖い。

完全に、進むも退くもできない状況だ。

背中に、冷たい視線が突き刺さっているのがわかる。

緊張で、手のひらにじっとりと汗が滲んだ。

時間が一秒ずつ削れていき、やがてエレベーターが警告音を鳴らし始める。

「おい。乗るのか、降りるのか、どっちだ」

そのとき、奥にいる男が口を開いた。

苛立ちを隠さない声音。ひどくしゃがれた声で、聞き覚えはない。

小林絵里は唇を噛む。坂東十樹、まだ来ないの?

走ったって、もう上がって来られるはずなのに――。

だが...

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