第622章

小林絵里は、心臓が跳ね上がった。

今夜は想定外のことが起きすぎだ。もう神経が擦り切れそうで、泣きたくなる。

彼女は慌てて鍵を開け、するりと中へ滑り込んだ。

――その瞬間。

肩をがしっと掴まれ、乱暴に部屋の奥へ押し込まれる。影もそのまま玄関に入り込んできた。

「きゃっ!」

小林絵里は悲鳴を上げ、必死に暴れた。玄関の棚に置いてあった小さな置物を掴み、背後の相手めがけて投げつける。

陶器の猫。ずしりと重い。頭に当たれば血が出る、そんな代物だ。

「小林絵里」

低く落ちた声。坂田和也だった。

彼は彼女の手首を掴み、青ざめた顔を眉を寄せて見下ろす。

「俺だ――」

小林絵里の腕は高...

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