第632章

「あなた……!」

 松本桜は怒りに顔を強ばらせて彼をにらみつけたが、言葉が喉の奥でつかえて出てこなかった。

 性格が悪いにもほどがある。

 小林絵里のほうへ目をやると、彼女は眉をかすかに寄せ、どこかつらそうに見える。これ以上言い合っても仕方ない。まずは絵里に食べてもらうのが先だ。

 松本桜は二歩ほど下がり、納得いかないという顔のまま坂田和也を見据えた。

 坂田和也はスプーンを取り、絵里の唇元へ運ぶ。小林絵里は彼を一度だけ見て、それ以上は何も言わずに口を開けた。

 身体と意地を張り合っても、得はない。

 拒まれなかったのを見て、坂田和也の視線がわずかに揺れた。

 目覚めたばかり...

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