第657章

「ん?」

 坂田和也は足を止め、小林絵里をじっと見据えて言った。

「本気か。俺に投げろって?」

「……うん。確実に」

 とにかく、絶対にこっちへ来させたくない。

「わかった」

 坂田和也は小さくうなずくと、手にしていたパジャマをぞんざいに放った。

 絵里は反射的に手を伸ばす。けれど、パジャマは彼女の指先をすり抜け、ぽとりと床へ落ちた。床には水が残っていて、布地はみるみる濡れていく。これじゃ着られない。

「……っ」

 絵里は顔を上げ、坂田和也をにらみつけた。

「わざとでしょ?」

 なのに、彼は端正で鋭い顔のまま、妙に無垢な表情を作る。

「投げろって言ったのはお前だろ。言...

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