第664章

  彼はそのまま彼女を抱き締め、体を押し当てた。長い沈黙のあと、ようやく腕がほどける。

  小林絵里の足が床に着いた瞬間、ふわふわした現実味のなさが、すっと引いていった。

  息はまだ荒い。体は力が抜けきっていて、もう押し返すだけの余裕もない。

  坂田和也は彼女の肩を支え、きちんと立てるのを確かめてから、手を離した。

  深夜の闇みたいな瞳――墨を流したように黒いその眼差しが、絵里をじっと捉える。しばらく見つめた末に、結局なにも言わず、踵を返して出ていった。

  あの清冽な匂いも、彼の背中と一緒に薄れていく。

  小林絵里はほとんど脱力したまま浴室を出て、ベッドの端に腰を下ろし...

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