第710章

小林絵里は、胸の奥が少しざわついた。前に朝食の店で顔を合わせて以来、彼はぱったり姿を見せなくなっていたのに。

今日になって突然現れたのだから、驚くのも当然だ。

だって、あのとき言うべきことは、もう十分はっきり伝えたはずだった。

小林絵りはふっと笑ってうなずく。

「いいですよ。ちょうど、もうすぐ家に着きますし。そうだ、夕飯はもう召し上がりました?」

高川寒彦は短く返した。

「うん、食べた」

「じゃあ、わたしは作らなくていいですね」

高川寒彦が口元だけで笑う。陰のある端正な顔立ちが、いっそう妖しく見えた。こちらを見るその瞳の奥には、言葉にできない感情が沈んでいる。

小林絵里は、...

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