第724章

空気には、ほのかな酒の香りが漂っていた。

 個室の中が一瞬、しんとする。静かなのはここだけじゃない。隣の部屋まで同じように静まり返った。

 個室は防音じゃない。松本桜は声も大きい。嫌でも耳に入る。

 古川修一と新谷逢弥は、そろって坂田和也を見た。どこか言葉にできない顔つきで。

 けれど坂田和也の端正で鋭い横顔は、凪いだ水面みたいに平然としている。感情の揺れは読み取れない。ただ、グラスを握る指だけが密かに力を込めた。

 しばらくして、少女の柔らかくも冷えた声が落ちてくる。

「……ないよ」

 坂田和也はグラスを持ち上げ、そのまま喉の奥へ流し込んだ。

 松本桜がへへ、と笑う。

「...

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