第730章

坂田和也がふいに彼女のほうへ歩み寄り、低く沈んだ声で言った。

「じゃあ、意味のあることでもするか」

そう言いながら、彼は小林絵里の手を取ると、そのまま指紋ロックへ押しつけた。

「……なにしてるの?」

小林絵里は目の前の光景に、言葉が止まった。――また、この男が発作みたいにおかしくなる。

ひんやりした坂田和也の指先が手首の肌に触れ、冷たさが細く伝わってくる。握る力は強引で、逃がす気がない。

「意味がないって言ったのは、おまえだろ」

距離はやたら近い。彼の身体から清冽な匂いが流れ込み、もう片方の手でドアを開けると、そのまま部屋へ押し入った。

小林絵里の胸の奥で警報が鳴り響く。

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