第748章

小林絵里は、もう完全に彼を無視していた。

  けれど……。

  ふと顔を上げると、彼はちょうど電話会議を終えたところだった。

  「ん?」

  視線が絡んだ瞬間、彼は余裕たっぷりにこちらを見返してくる。

  その瞳から、さっきまでの氷みたいな冷たさは消えていた。水のようにやわらかな情が揺れていて――そのまま溶かされてしまいそうになる。

  もっとも。わたしの胸の壁は、まだ崩れない。

  「佐川のおっさんのところ、行ってきます」

  坂田和也は頷いた。

  「行け」

  小林絵里は言葉を重ねる。

  「あなた、あの人の息子さんをあそこまで追い込んで……顔を見て、罪悪感はな...

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