第758章

小林絵里「いいえ、結構です」

 そう言って絵里は器と箸を手に取り、黙々と口に運びはじめた。

 ほとんど丸一日、まともに何も食べていない。空腹は正直で、いまは坂田のどこか甘ったるい視線さえ気にならなかった。

 坂田和也は病床の脇に腰を下ろし、じっと彼女を見つめている。

 見入るあまり、ふいに手を伸ばして頬に触れようとした。

「……何するんですか?」

 絵里はさっと身を引き、警戒するように睨む。

 坂田の手が宙で固まったまま、彼は淡々と言った。

「髪が落ちてきてた。食べづらいかと思って、どけようとしただけだ」

 絵里は自分で髪を耳にかける。

「わたし、ひとりでできます」

「...

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