第762章

「無理」

 小林絵里はきっぱりと言い切った。

 そして手を伸ばし、エレベーターの〈閉〉ボタンを押す。扉がゆっくりと閉まり、坂田和也の端正で鋭い顔が視界から遮断された。

 小林絵里は、悟られない程度にふっと息を吐く。

 正直――。

 手口を変えてきた坂田和也は、こちらの想定を軽々と飛び越えてくる。気を抜けば、反射的に彼の頼みを飲んでしまいそうで怖かった。

 落ち着いて。

 絶対に、落ち着くんだ。

 ……

 家に戻ると、松本桜がリビングのソファに座ってテレビを見ていた。

 物音に気づいた彼女は振り向くなり立ち上がり、そのまま駆け寄ってくる。

「絵里ちゃん! 会いたかったぁ!...

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