第807章

小林絵里は歩み寄り、倒れていた椅子を起こした。がたん、と立てる音に、坂田和也が眉をひそめる。

振り返りもせず、氷みたいな声で言った。

「出ていけ」

「……うん」

小林絵りは短く応え、椅子を元に戻すと、そのまま踵を返した。

彼女の声が耳に入った瞬間、坂田和也が勢いよく振り向く。去ろうとする背に大股で追いつき、手首をつかんだ。

「お前だとは思わなかった。悪かった」

彼女の姿を認めると、整った鋭い顔に一瞬だけ驚きが走り、次いで瞳に張りついていた冷えが、少しずつ溶けていく。怒らせてしまったのでは、とでも言うように、緊張した目で彼女を見つめた。

小林絵里はちらりと彼を見て言う。

「怪...

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