第81章

「まあいいわ。あれこれ考えるのはやめて、まずは引っ越しよ」

他に名案も浮かばず、小林絵里はすっぱりと思考を放棄した。

松本桜も頷いて同意する。

「ずっと憧れてた大きな家についに住めるんだから、喜ばしいことじゃない」

小林絵里はふふっと笑みをこぼした。

洗面用具などを詰め込んだリュックを背負い、彼女は松本桜と共にそのまま楓の苑へと向かった。

入り口で警備員に呼び止められ、面会簿に記帳してようやく中へと足を踏み入れる。

その厳重な警備に、小林絵里は胸を撫で下ろした。少なくとも、あの男がここまで押しかけてくることはないだろう。

坂田和也からあてがわれたのは三十一階の部屋だ。エレベー...

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