第821章

焼き肉の香りがあっという間に広がり、小林絵里の意識は現実へ引き戻された。――本当に、お腹が空いていた。

どうやら隣の席にあの連中がいるせいで、松本桜の調子は崩されっぱなしらしい。食事の最中も、彼女は何度も何か言いかけては、視界の端に男たちの姿を捉えてしまい、ふう、と肩を落とした。

「……ムカつく」

結局、そう吐き捨てるだけ。

小林絵里は箸を動かしながら言った。

「今はちゃんと食べよ。話はあとでいいでしょ」

「うん」

松本桜は小さくうなずいた。

空気はどこかぎこちない。それでも肉はうまい。小林絵里は黙々と食べ、気づけば結構な量を平らげていた。そのころ、隣の卓では炭の交換が始まっ...

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