第831章

彼女の言葉を聞いた小林絵里は、思わず苦笑いしてしまった。

それでも素直に部屋へ戻る。たしかに、今さらになって指先がじんわり冷えてきていた。

……

その夜は、夢ひとつ見なかった。

翌日。

午前九時、小林絵里はきっかり市役所の前に立っていた。

五分もしないうちに、パナメーラが一台滑り込んでくる。駐車枠にぴたりと停まり、ドアが開いた。

降りてきたのは坂田和也。すらりとした長身に、整った骨格。彫りの深い眉と目元は冬よりも冷たく見えて、近づくだけで空気がひやりとした。

「早いな。寒くないのか?」

坂田和也は彼女の前まで来ると、いきなり両手で頬を包んだ。掌の熱で、冷えた肌を温めるみたい...

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