第842章

どれほど時間が経ったのだろう。小林絵里は再び、扉が開く音を聞いた。彼女は床に座ったまま、指一本動かさない。

足音は、彼女の少し手前で止まった。見下ろす視線が、頭上から刺さってくるのがわかる。

来たのは田中じゃない。

絵里は掠れた声で尋ねた。

「……誰?」

しばらくして、電子音のような声が響く。

「お前は夕飯を食べてない。日野安月も食べてない。お前が水を飲まなきゃ、あいつも飲まない」

小林絵里の呼吸が、ひゅっと詰まった。

「……笑わせないで。そんなので脅せると思ってるの? わたしがいちばん後悔してるのは、あの子を巻き込んだことなんだから!」

相手は黙った。

空気が、しんと沈...

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