第853章

その言葉を聞いた瞬間、小林絵里の顔色がさっと曇った。

出ていかないなら、力ずくで連れ出すつもりなのか。

――だめ。

行けない。

もう助けが向かっている。時間を稼がなきゃ。

小林絵里はじりじりと後ずさりしながら、頭の中で寝室の配置を必死に思い起こしていた。

左手がテーブルの縁に触れた。ぱっと表情が明るくなる。足音に耳を澄まし、誰かが近づく気配を感じた瞬間、彼女はテーブルの上の帆船の置物をつかんで、歩いてきた相手へ叩きつけるように投げつけた。

大きくて、ずしりと重い。持ち上げるだけで精一杯だったが――それでも、投げられた。

ボディガード二人はとっさに身をかわし、帆船の置物は床に落...

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