第93章

 小林絵里がデスクに座り、パソコンを立ち上げてから間もなく、周囲のざわめきがふっと静まり返った。

 絵里が訝しげに振り返ると、すぐそばに坂田和也が立っていた。

 彼女はハッと表情を強張らせた。

「坂田社長、何かご用でしょうか」

 和也は細く漆黒の瞳で彼女を見下ろし、低く響く魅力的な声で言った。

「用事だ。ついてこい」

「……はあ」

 絵里は短く答えた。

「……」

 和也は無言になった。

 松本幸雄が電話した時は『手が離せない』と答えたくせに、自分が直接出向けば暇になるというのか。

 和也は苛立ちのあまり、口元を微かに引きつらせた。

 絵里が彼の後ろに従って社長室に入る...

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