第109章 浮気相手

安藤汐は、胸の奥が驚きと喜びでぐちゃぐちゃになっていた。自分がどうやって文井哲に促され、あの高級車へ乗り込んだのかさえ、うまく思い出せない。

雨のカーテンの中を、車は滑るように走る。車内は暖房がよく効いていて、安藤汐は後部座席で背筋を固くしたまま、落ち着かない。

文井部長の言葉が、頭の中で何度も反芻された。

深く考えたらだめだ。

そう思うほど、頬が熱を帯びていく。

やがて文井哲は大学街へは向かわず、市内中心部のいちばん賑やかな商業施設の前で車を止めた。

「文井部長、ここは……」

安藤汐が戸惑って尋ねると、文井哲は短く言った。

「降りよう」

彼は先に降りてドアを開け、傘を差し...

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