第12章 元恋人のために設計されたものではない

彼女は、今度こそキスが落ちてくると思った。

けれど芳丸巡哉は腕を伸ばし、彼女の肩越しに副席脇のシートベルトのバックルへ指先を押し当てただけだった。

「カチッ」

乾いた小さな音とともに、ベルトが弾けるように外れる。

張りつめていた圧がすっと退き、彼はもう元の距離へ戻っていた。さっきの、心臓が追いつかないほどの接近など、最初からなかったみたいに。

車内の空気だけが、艶めいた余熱をうっすら残している。なのに白川凰姫の頬は、いっそう熱くなっていく。

「降りろ」

淡々とした声。感情の波は読み取れない。

馴染みのある平屋のフロアへ戻ると、玄関の灯りが滝のように注ぎ、ガレージの薄闇を追い払...

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