第154章 縁がない運命

芳丸巡哉の仇敵?

誘拐――?

ぐちゃぐちゃの思考が、いくつも頭をよぎる。

次の瞬間、前方のマイバッハのドアが開いた。

仕立てのいいグレーのスーツを纏った男が、ゆっくりと降りてくる。

背筋はまっすぐ。柔らかな気配をまといながら、金縁眼鏡の奥の視線だけが、こちらを真っ直ぐ射抜いていた。

――この人だ。

白川凰姫は、一瞬だけ呼吸を忘れた。

相良沢弥。

目の前の男が放つ空気は、芳丸巡哉に似ている。けれど、決定的に違う。

芳丸巡哉が冬の寒気の中で抜き放たれた刃なら、相良沢弥は秋空の下で引き絞られた弓だ。穏やかな皮を被ったまま、いつでも放てる鋭さを溜め込んでいる。

運転手は降りなか...

ログインして続きを読む