第31章 俺は断じて離婚しない!

時が、この瞬間だけ引き伸ばされて凍りついたようだった。

薄い酒の匂いと高級なルームフレグランスが混ざり合い、鼻腔の奥へねっとりと入り込む。甘いのに生臭い。吐き気を誘う、嫌な甘さ。

相良沢弥が立ち上がり、こちらへ歩いてくる。スーツとシャツに縁取られた体つきは、大学の頃よりもずっと逞しく、肩幅も厚い。

そして――あの目。凰姫を見つめる瞳の奥には、かつて彼女が嫌というほど見慣れた、まっすぐな執着と甘い情がまだ残っていた。

白川凰姫がここにいることに、彼は驚かない。最初から分かっていた、とでも言うように。

凰姫は頭の中がぐちゃぐちゃで、そこまで思い至れなかった。ただ、体だけが固まって動かな...

ログインして続きを読む