第32章 彼女の抗議

白川凰姫の右耳がじわじわと唸った。世界が誰かにミュートされたみたいに音が遠のいていき、深い氷の底へ落ちていく。手足の先が冷え切って、感覚が消える。

――そういうことだったんだ。

これが、彼が自分を娶った理由。

五年間の結婚。息を殺して守り抜いてきた体面。自分だけが密かに育てていたときめき。

彼の目には、それは「残っている価値」でしかなかった。

「盾」。

役目を果たしていればいい。主人が飽きるまで。厭いたら、もっと都合のいい代わりが見つかったら――音もなく捨てられる。

これまでの「守ってくれた」という錯覚も、結局は芳丸家の体面を守っていただけ。

白川凰姫は全身の力を根こそぎ抜か...

ログインして続きを読む