第39章 痕跡を一つも残すな

川瀬清子はぽかんと目を見開いた。

「……私ですけど。あなた、どちらさま?」

「木下と申します。芳丸グループ社長室付きの補佐でございます」

木下補佐はそう名乗ると、半身になって通路を空けた。彼女の背後では、作業着姿の男が二人、真新しい梱包の大きな箱を運び込もうとしている。

「こちらは暖房機器です。それと――」

木下補佐は顎で後ろを示した。玄関先には、山みたいに積まれた荷物。

「奥さまが使えるものをいくつか。どちらに置けばよろしいでしょうか」

川瀬清子は完全に固まって、反射的に部屋の中を振り返った。

「社長の指示でございます」

木下補佐の声音はどこまでも平板で、業務報告みたいだ...

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