第76章 本当の社長奥様

「申し訳ございません、川瀬様。こちらは規定の手続きに沿っておりませんので」

受付の女性は笑みをほんの少し薄くし、マニュアル通りの口調で彼女の言葉を遮った。

気まずい沈黙が落ちる。川瀬清子の顔が、みるみる真っ赤になった。

白川凰姫がそっと袖を引き、「……もういいよ。帰ろう」と小さく言う。

二人が踵を返した、その瞬間だった。

脇の、扉が半分だけ開いたままのVIP応接室から、さっきとは別人みたいな声が飛び出してきた。

媚びと驚きと、過剰な熱量がないまぜになった声。

「新谷様! どうしてわざわざお越しに? もう、展覧会ならお電話一本でよろしいのに! こちらでいつでも段取りいたします!」...

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