第81章 約束どおりに

白川凰姫は小さくうなずき、重厚なブラックウォールナットの扉を押し開けた。

視界に飛び込んできたのは、巨大な床から天井までの窓の向こうに広がる川市の夜景だった。無数の灯りが流れとなり、きらめく川のように街を縫っている。

芳丸巡哉は広い執務机の向こうに座り、ヘッドセットをつけたまま、画面の相手と流暢なドイツ語でやり取りしていた。

低く落ち着いた声。早口ではないのに、異論を許さない圧が滲む。

白川凰姫は邪魔をせず、応接スペースのソファへ静かに腰を下ろした。

結婚して五年。ここへ来た回数は、指で数えられるほどしかない。

前に川瀬清子と一緒に来たときは、口論に夢中で、この部屋をまともに見て...

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