第84章 次の男まで見つけたの?

彼女は、もう彼を前にしても心を波立たせずにいられるはずだと思っていた。けれど今夜の彼の取り乱しは、小石みたいに静かな心の湖面へ落ちて、幾重にも波紋を広げていく。

自分のため?

新谷善帆のからかいが、まだ耳の奥に残っている。白川凰姫は自嘲気味に口元を吊り上げた。――ありえない。

新居へ戻り、白川凰姫は彼を部屋まで運び込むだけで、ほとんど力を使い果たした。ようやく身を引こうとした、その瞬間。

手首を、がしっと掴まれる。

「……行くな」

閉じた瞼。寄った眉。寝言みたいに、けれど妙に執拗な声。

「行かないわ。お水、持ってくるだけ」

振りほどこうとした。だが、驚くほどの力で引かれ、彼女...

ログインして続きを読む