第88章 そんなことを言うな

彼女は動きやすいスポーツウェアに着替え、薄くメイクをして赤く腫れた目元を隠した。さっきまでの沈んだ顔が嘘みたいに、いくらか元気が戻って見える。

相変わらず芳丸巡哉に愛想はない。それでも外へ出る気になっただけで、十分に前向きな兆しだった。

男はほっと息をつき、みずから車のドアを開けてやる。

――だが。

実際にスキー場へ着き、装備を整え、目の前に広がる真っ白なゲレンデと、勢いよく滑り降りていく人影を見た瞬間。白川凰姫の顔から、さっきまでの高揚がすうっと引いていった。

無意識に、下腹へ手が伸びる。まだ平らなそこには、小さな命がいる。

医師は言っていた。妊娠初期の三か月は特に慎重に。スキ...

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