第92章 彼女はただの子供だ

「怖がらないで。おうち、どこ? お姉ちゃんが送ってあげる」

「すぐそこ……あの路地を曲がったら着く。でも、こわい……ひとりじゃ行けない」

小さな女の子が、むちっとした指で少し先の細い路地を示した。

「じゃあ、お姉ちゃんが一緒に行くね」

白川凰姫は深く考えもせず、冷え切ったその小さな手を握り、路地へ足を向けた。

自分の中に新しい命が宿っているからだろうか。母になろうとしているせいか、子どもを見ると胸の奥がきゅっと柔らかくなる。

路地は思った以上に奥へ伸びていた。両側の壁は塗装が剥げ、ところどころ黒ずんでいる。進めば進むほど光が細り、さっきまで聞こえていた波音さえ遠のいていった。

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