第22章 傷を見て、小野寺彩音、大人しく

ようやく、周藤啓は場の空気を和ませるかもしれない話題を思い出した。

「古賀社長、先日、京華オークションハウスからオークションの招待状が届いておりまして。開催は明日の夜です」

「時間がない」古賀硯司は考える間もなく断った。

周藤啓は続けた。「出品物の一つに、奥様のお母様の遺品が」

古賀硯司の記憶力は優れており、以前小野寺家の別荘で耳にしたあの翡翠の数珠を瞬時に思い出した。

彼は即座に考えを変えた。「行く」

京華オークションハウスは、オークション会場をある洋館に設けていた。

玄関ポーチの外は煌びやかな衣装に身を包んだ人々で溢れ、高級車が絶えず行き交う。「贅沢」という...

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