第94章

村上信也は車椅子の肘掛けに両手を突き、じりじりとその距離を詰めた。幽暗な瞳が、白井麗子の白磁のような肌を射抜く。

「今の態度は、俺に対するものか?」

瞳の奥に宿る闇が、次第に冷徹な殺気へと変貌していく。危険な兆候だ。

麗子は反射的に上体を引いた。月明かりの下、その頬に微かな、本人も気づかないほどの朱が差す。

「村上さん、近すぎます……離れてください」

彼女は胸元で手をかざし、拒絶を示した。その声色には、村上の耳に嫌悪と響く響きが含まれていた。

村上は冷笑を漏らし、麗子の顎を強引に掴んで上向かせた。挑発的に片眉を上げる。

「俺が嫌か?」

開閉する薄い唇から、芳醇なワインの香りが...

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