第3章

それから数日間、夏美はほとんど佐藤の姿を見かけなかった。

佐藤一郎は意図的に夏美を避けているようで、いつも田中優と一緒にいた。

その日の午後、夏美は気分転換をしようと、あてもなく街を歩いていた。

ふと、見覚えのある人影が目に入る——佐藤一郎だ!

佐藤一郎は多くの漫画スタジオが軒を連ねる、狭い路地へと急いでいた。

夏美は一瞬ためらったが、やはり後を追うことにした。

路地裏は静まり返っており、時折聞こえるのはペンが紙を擦る音だけだった。

夏美は路地の入り口に身を潜め、佐藤一郎があるスタジオの前で立ち止まるのを見つめた。

「一郎」

聞き慣れない男性の声がした。夏美がそっと顔を覗かせると、そこにいたのは未来から来たと名乗るあの中年男性だった!

「未来の僕、今度は一体何が言いたいんだ」佐藤の口調にはどこか苛立ちが滲んでいた。

「君の選択は正しかった!田中優は夏美より漫画家として大成するのに向いている」

中年男性、すなわち『未来の佐藤一郎』は微笑みながら言った。

夏美の心臓が激しく脈打ち始める。

「君の助言通りにしたんだ。だったら、どうしてそこまで断言できるのか教えてくれよ。未来で一体何が起こったんだ」佐藤一郎は問い詰めた。

「田中優は夏美のように、感覚だけで絵を描いたりはしない」未来の一郎の口調には称賛の色が混じっていた。「彼女は技法を重んじ、理論の基礎を大切にする。それはプロの漫画家になるための必須条件だ」

佐藤一郎は少し考え込む。「確かに、優君の技法はしっかりしている……」

「それに比べて夏美はどうだ」未来の一郎は冷笑した。「奇抜なアイデアばかりで、確かな技術が何もない。あんな漫画家、商業市場では全く通用しないぞ」

「勿体ぶらずに、要点を言え!」佐藤一郎は眉を顰めた。

「田中優を君の仕事のパートナーとして選ぶんだ」未来の一郎は佐藤一郎の肩を叩いた。「信じろ。俺は経験者なんだから」

夏美は壁の隅に隠れ、拳を固く握りしめた。

飛び出して自分のために弁解したかったが、今はその時ではないと理性が告げていた。

「聞きたいんだが」佐藤一郎が不意に口を開いた。「前に、夏美を選ぶと未来が不幸になると言ったな?」

未来の一郎の表情が陰る。「真実が知りたいか」

「言え」

「君が夏美と一緒になった後、彼女は君の創作の道における最大の障害になった」未来の一郎は容赦なく言い放った。「彼女の連載は何度も打ち切られ、最終的には普通のイラストレーターに転身した。それに、彼女の創作スタイルは君の判断を鈍らせ、君をも感性頼みの邪道へと引きずり込むんだ」

佐藤一郎の顔色が変わった。「本当か」

「無論だ」未来の一郎は続ける。「田中優は違う。彼女は理論がしっかりしていて、連載も安定している。その上、君の創作を手助けすることもできる。何より重要なのは、彼女がずっと君の画風を研究していて、君の創作への理解が深いということだ」

ここまで聞いて、夏美の視界はすでに涙で滲んでいた。

「田中優は最初から最後まで君の創作を支持してくれる。彼女こそが君と波長の合う人間なんだ!」未来の一郎は強調した。「一方、独りよがりな夏美は、君からプロとしての自信を奪うだけだ」

佐藤一郎は頷いた。「確かに、優君と技法の話をすると、すごくしっくりくる。夏美といると、いつもどこか物足りなさを感じる。……君の言いたいことが、分かった気がする」

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