第4章

学期の作品展は学園の展示ホールで催される。学生たちが半年間の学習の成果を披露する重要なイベントだ。展示ホールは学生や先生、それに業界関係者まで訪れてごった返している。夏美が自分のブースを整理していると、不意にざわめきが聞こえてきた。

「佐藤くんがプレゼントを渡すって!」

「誰に?」

「田中優に決まってるでしょ!」

夏美が振り返ると、佐藤一郎が田中優のブースの前に立ち、手には精巧な赤い絵筆を握っていた。

「優くん、この絵筆を君に」佐藤一郎の声が展示ホール全体にはっきりと響き渡る。「最高の創作パートナーになれることを願ってる」

田中優は恥ずかしそうに絵筆を受け取り、その瞳を得意げな光で輝かせた。「ありがとう、一郎くん。大切にするわ」

周りの学生たちが囃し立て始める。

「うわ、佐藤くん、ついに告白した!」

「田中さんって幸せだねぇ!」

「確かに最高のパートナーだよな!」

佐藤一郎が所属する漫画研究会の仲間たちは、さらに大声で叫んだ。「田中優!最高のパートナー!」

田中優は皆の注目を浴びることに浸りながら、わざと夏美の方に視線を向け、当てつけるように言った。「アイデアだけあっても技法がなければダメなのよ。もっと勉強が必要な人もいるみたいね」

田中優の言葉が終わるや否や、周りから同調する声がいくつか上がった。

夏美は屈辱と憤りで顔を赤らめ、足早に展示ホールを後にした。

今はただ、静かな場所で黙々と自分を磨きたい。

図書館で、夏美はほとんど常連と化していた。彼女は遠近法や人体構造の専門書に没頭し、毎晩のように基礎的な線画の練習に明け暮れた。

『透視学原理』、『人体解剖図ガイド』、『構図技法大全』……。

分厚い教本が次々と彼女の机を埋め尽くしていく。彼女はこれまでの自由気ままな創作スタイルを改め、好きだった水彩画を一時的に封印し、モノクロの線画に専念した。

毎日朝八時から夜十時まで、丸々十四時間。指には鉛筆ダコができ、目は充血していたが、彼女は諦めなかった。

一ヶ月後、技法考核の結果が発表された。

夏美はクラス四十位から十五位まで順位を上げたのだ!

成績表を見つめ、夏美は久しぶりに笑みを浮かべた。まだトップテンには届かないが、これまでの努力が無駄ではなかったことの証明だ。もっと上に行けるという自信が湧いてきた。

成績が発表された日、夏美は展示ホールで新しい練習作品を整理していた。

「あら、十五位だったの」田中優の声が背後から聞こえた。明らかに嘲りが含まれている。

夏美が振り返ると、田中優が数人のクラスメイトと一緒にこちらへ歩いてくるところだった。

「何か用?」夏美は真剣な表情で答える。

「実力もないくせに、態度は一人前ね」田中優は口元を隠してくすくす笑う。「トップテンにはまだまだ遠いじゃない。どうやら現実離れしたアイデア頼りの人には、商業連載で生き残るなんて永遠に無理みたいね」

田中優の言葉に、数人のクラスメイトが忍び笑いを漏らした。

だが、夏美は別のことに気づいていた。田中優の最新作——そのスタイルが変わっている!

ますます……。

「優くん、あなたのスタイル……」夏美は注意深く観察する。

「ああ、これ?」田中優は得意げに言った。「しっかりした技術を前提に、アイデアの要素を適切に取り入れてみたのよ」

夏美は見れば見るほど違和感を覚えた。田中優が言うところの「アイデアの要素」とは、明らかに彼女のアイデアのスタイルを模倣したものだった!

「優くん、アイデアランキングのことは知ってる?」夏美は唐突に尋ねた。

田中優の表情がこわばる。「どういう意味?」

「先学期のあなたのアイデアランキングは学年八位だったと記憶してるけど、今学期はどうだったの?」

田中優の顔色が変わった。「そ……そんなの重要じゃないわ……」

「成績表を見たわ。あなたの今学期のオリジナリティランキングは三十二位」夏美は彼女の目をまっすぐに見据える。「技法は向上したけど、オリジナリティは下がったのね」

周りの学生たちがひそひそと話し始め、何人かは田中優の作品に確かに模倣の痕跡があることに気づいた。

田中優は逆上した。「オリジナリティが何よ?商業漫画は技術の方が重視されるんだから!」

「でもオリジナリティがなければ、ただの機械的な模倣よ」夏美は静かに言った。

田中優は状況が自分に不利だと悟ると、くるりと目を回し、一計を案じた。

「あっ!」彼女は突然甲高い声を上げ、自分の絵を指差した。「私の絵が……汚されてる!」

皆が見ると、田中優の作品の上には確かに一滴のインクの染みがついていた。

「あなたね!」田中優は夏美を指差し、目に涙を浮かべる。「わざと私の作品を壊したんでしょう!」

夏美は呆然とした。「やってない……」

「さっき私の絵の隣に立ってたのはあなただけじゃない!」田中優はか弱いふりをする。「私が一郎くんに認められたのが、そんなに妬ましかったの?」

周りの学生たちはざわつき始めた。

「本当に夏美がやったのかな?」

「夏美の性格からして、そんなことしそうにないけど……」

「でも彼女以外に誰もいなかったし……」

田中優はさらに悲しげに泣き出した。「私はただ、創作のことだけを考えていたのに、どうしてこんなひどいことをするの?」

夏美は田中優の偽りの演技に吐き気と怒りを覚えたが、こんなくだらない争いに巻き込まれたくはなかった。

「新人コンテストに出す作品の準備をしに行くから」彼女は背を向け、立ち去ろうとした。

「夏美!待て!」

佐藤一郎の声が雷鳴のように響き、彼は夏美の前に駆け寄ると、彼女の腕を掴んだ。

「優くんの作品が傷つけられたのか?」佐藤一郎は心配そうに田中優に視線を送る。

「一郎くん……」田中優は滂沱の涙を流す。「大丈夫よ、きっと事故だったのかも……」

「事故なわけないだろう!」佐藤一郎は夏美を睨みつけた。「どうして優くんを狙うんだ?創作理念が合わないからか?」

夏美は彼の手を振り払った。「やってないって言ってるでしょ……」

「そんな非現実的な幻想以外に、君に何がある?」佐藤一郎の言葉は刃のように鋭い。「出版社だって、どうせ数回で打ち切りにするさ!君に漫画家になる資格なんてない!」

田中優が傍らで、さも物分かりのいいふりをする。「一郎くん、夏美にそんなこと言わないで……きっと私に嫉妬してるだけなのよ……」

「嫉妬?」佐藤一郎は壁の評価ランキングを見た。田中優が三位、夏美が十五位。

「確かに嫉妬すべきだな!」彼は夏美を見て冷笑する。「自分の創作が紙屑の山だって、まだ気づかないのか?」

その一言が、夏美を完全に激怒させた。

夏美はパレットの上の絵の具をひっつかむと、佐藤一郎に向かって思い切りぶちまけた!

バシャッ——

七色の絵の具が、彼の服の上で怒りの花のように咲き乱れる。

「お前……」佐藤一郎は信じられないといった様子で自分の服を見下ろした。

夏美はそこに立ち、胸を激しく上下させ、瞳に怒りの炎を燃やしていた。

「佐藤一郎!よく聞きなさい!」

「私の作品が何ですって?作品に感情を注ぎ込むのは、絵描きなら誰だってすべきことよ!」

「技法が全てだとでも思ってるの?冷たいだけの線が、真実の感情に勝てると思ってるの?」

「言っておくわ。いつか必ず、私の作品で証明してやる。何が本当の漫画なのかを!」

佐藤一郎は陰鬱な表情で彼女を見つめる。絵の具が彼の服から滴り落ちていた。

「二度と僕の前に現れるな!お前もお前の作品も、反吐が出る!」

その言葉は判決のように、二人の間にあった全ての可能性を断ち切った。

夏美は彼の冷え切った眼差しを見つめ、心の中にあった最後の一片の温情も消え去った。

夏美は背を向け、去っていく。その背中は固く、決然としていた。今日から、彼女は完全に自分だけの道を歩むのだ。

もう誰かの承認のために妥協しない。誰かの視線のために自分を変えたりしない。

彼女は自分のやり方で、この世界で最も優れた漫画家になってみせる。

彼女の創作を見下した全ての人間に、今日の言葉の代償を払わせるために!

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